散💰財
「さ、寒すぎる」
手持ちのコートがスーツと一緒に買ったペラペラのトレンチのみの私は毎日凍死のリスクに晒されて生きている。今すぐにでも新しいのを買わなければいつ死んでもおかしくはない。去年は去年でリサイクルショップもどきの店でタダ同然で貰ってきた男物のコートを着ていた。これが重くてデカいくせしてそこまで暖かくないし、裏地がテラテラ光る真紅の布であり、風にコートをはためかせるその姿は完全にドラキュラ。というかドラキュラみたいな貧乏限界受験生JKって本当に一体何だったんだ。そろそろまともなコートが欲しい。というわけで久しぶりに一日暇だから買いに行こうと心に固く決意した。
そうはいっても今はペラペラトレンチしか持っていない。当然外に出る気力が湧くはずもなく、3時過ぎまで布団の中でデトロイトビカムヒューマンの実況を見て過ごした。
どうにかこうにか布団から這い出て家からも這い出て街に向かったが、初手のブックオフという罠にまんまとかかり、気づいた時には22冊の漫画を抱きしめて会計を済ませていた。この量の本を抱えて店内を闊歩したから、翌日は腕が筋肉痛になっていた。
全部百円コーナーで買ったあたりになけなしの理性を感じる。
ヴィンランド・サガは前からずっと読みたかったのでここにあるヴィンランド・サガ、全部くれと言わんばかりの勢いで本棚からごっそり抜き取ってやった。勢いに任せて特段欲しいわけでもなかったアド・アストラも買ってしまった。七夕の国はどういう話か知らなかったが岩明均が描いているなら当然神漫画だろう、なぜなら彼は天才だから。あとなんかネットで評価されてるの見かけたことある気がするし。という理論の下買った。実際おもしろかったので、やはり彼は天才である。構成や発想、表情がよく評価されているが、個人的には何とも言えない不気味さと決定的な瞬間の時の流れ方の表現において特に鬼才ぶりを発揮していると思う。とんがり帽子のアトリエは絵が上手すぎるので、主人公達がピンチの時でも「ヤバ、絵うまいですねニチャ…」とニヤつきながら読んでしまうし、この漫画のせいでロリコンになりそうである。(それぞれタイプの違うめちゃかわいい女の子が4人出てくる。)
数キロは重みを増したリュックを背中に抱えてすでに少し前かがみになりながら歩いているとなんかおしゃれなビルがあったのでヘラヘラと入っていった。眺望。
なんかお高い服が普通に売っていて怖かった。歩いていたら迷路のようなところに迷い込んでヌッと目の前にぶら下げられたモンクレール(金持ちが着る服とツイッターで学んだ。極まると犬も着ているらしい)が現れ、今ここですっ転んで引き裂いてしまったら一体私はどうなるのだろう、臓器とか売らないといけないのかな…という恐怖で目の前が真っ暗になった。でも無印良品もあったので良かったです。価格設定を見て安心しました。
とりあえずそこを離れて安い服が売っているという絶対的信頼のあるビルでちゃんと良い感じの値段でコートを買えた。これで凍死の心配はなくなった。やれやれ一安心である。近づきつつあるクリスマスに向けて気分をぶち上げるためリースを買った。(本当はツリーが欲しかったのだが、もたもたしているうちにいきなり売り切れた)
飾ってから気付いたのだが、外を覗こうとすると鼻の穴に葉が入ってくる位置にしてしまった。これから来客があるたび鼻血を流さなければならないのかと思うと憂鬱である。
漫画22冊とでっかいコートを抱えて歩くという地獄の家路を何とか乗り切り、本棚に新入りを加えて我が家の漫画コレクションをニヤニヤと眺めた。数えてみたら全部で87冊あった。
湯を沸かしただけなのに吹きこぼれさせたり、友達と電話したり、岩明均の漫画のうまさに心酔したり、とんがり帽子のアトリエの絵の良さに大騒ぎしたりして、気づいたら寝ていた。おしまい。