はいら日記

犬の顔にはめるバケツみたいな何かと数千万円するエルメスのバッグばっかり宣伝される

我初訪問鼠之国

生まれて初めて(日本の)ディズニーに行った。十数年東京に住んでいて東京ディズニーリゾートに一度も行ったことがなかったというのは天然記念物や珍獣を超えてもはやこの世のバグ、想像上の生物のようなものである。その原因は小中とろくに友達がおらず、親がディズニー好きではなかったために家族と行くこともなかったこと、そして高校に入ってからはなぜかずっとタイミングを失い続けていたことである。自分は行ったことがないのに周りが普通に行っているとハードルが勝手にどんどん上がり、さらに行きづらくなっていたのである。ちなみに「日本の」というのを常に強調しているのは海外のには行ったことがあると主張しないと私の沽券に関わるからである。ディズニーに行ったことがないと言って相手がえっ可哀想という反応をした時すかさず海外は経験があると言えば一瞬で形勢を逆転できて気味が良いのでしょっちゅうやっていたものである。しかしこれももう過去の話。私はついに今日を持って「ディズニーに行ったことがある人」の仲間入りを果たしたのである。正直こんな普通でない状況には辟易していたし、本当に本当に行ってみたかったのだ。

同行してくれたのは高校時代から仲が良かったAとIである。Aは高校時代から通学に使っていたバカでかいリュックで来ており、彼に勧められ園の外で飲み物を買ったものの鞄に入らなくて困惑していた私は彼に持たせることにした。かつて教科書が山盛り入っていた彼の鞄の中には今度は食べ物が山盛り入っており(私に会うなりキットカットだのせんべいだのたくさん渡してきた)、その上からパーカーを押し込んでぱっと見はわからないようにして堂々と入場のチェックを通り抜けていった。

二人がセンター・オブ・ジ・アースを「センター」と呼ぶので私はその乗り物を大学入試センターと呼ぶことにした。これに並んでいる間、Aはおもむろにリュックから100円くらいで小さなクリームパンが5個くらい入っているものを取り出し食べ始めた。

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これは待つ場所の壁なのだが、これを酸性雨の影響ということにして人々を啓発するブログを書こうと思ったものの面倒くさいのでやめた。ディズニーの装飾は本当に手が込んでいて感心するばかりである。

マーメイドラグーンのあたりに幼児向けの雑魚ジェットコースターがあるのだが、これで叫ぶ人がいたら面白いかなと思って喉が潰れるまで本気で叫んでみた。周りから笑い声が聞こえた気がしたがコースターが走っている間の私は全身全霊で叫んでおり、持てる力全てを使っていたため周りの状況なんて把握している余裕などなかった。あとで二人に聞いたところ私の本気の絶叫に皆笑っており、後ろのおじさんに至っては悲鳴を上げるほどウケていたらしい。二人も笑ってしまって私と一緒になって叫ぶどころではなかったという。ちなみにこんなにドッカンドッカンウケたことに味を占めた私たちは夜になってから再び乗り、今度は三人で本気の叫びをパークに響かせたが時間が経って人々も疲れていたこととカップルが多くて大ウケする雰囲気ではなかったことにより、残念ながら周りからの反応は絶無で萎えたのであった。

タワーオブテラーに乗ることになったのだが、タワーオブテラーの外観は以前からかわいいなと思っていたのでかなり楽しみであった。(実際、内装も好みだった。)しかし、並んでいる途中にIが異常に怯え始めた。この時撮った写真が数枚あるが、Iだけ全て目が死んでいる。このアトラクションがどんなものなのかネットで見た情報と人からの話でうっすらとしか知らない私は最初は倒れている石像に「ねえ、起きて起きて!朝だよーー!!」と話しかけるなど自信満々であったものの彼女の様子を見て不安になり始めた。Iに怖いかどうか聞いても既に会話すらままならない状態なのでAの方を向き、「これって生きて帰れる?」と聞いたところ、大丈夫だよーと言われたが、よくよく考えるとAもまともな恐怖心を欠如していそうだったので信用はできず、香港のディズニーにはそれほど怖い乗り物はなかったという記憶からディズニーは手加減してくるものだという自説を信じることにした。実際乗ってみたところ、確かに暗闇を落ちるのは怖いが全く大したことはなかった。よみうりランドアメリカで乗ったフリーフォールのほうがよっぽどスリリングである。内臓が持ち上がる感覚が好きな私としては残念極まりない。Iは死にそうになっていたが。彼女以外でそんな風になっていたのは全て5、6歳以下であった。

諸事情によりIと二人で行動することになった。以前からかわいいと思っていた船コロンビア号に乗り込み散歩したが、ここがそれはもう恐ろしい陽キャの巣窟と化しており、生足出したJK達が通路の反対側にカメラをセットして写真撮影に勤しんでいるため通路を歩くこともままならない。パークを一望できる見晴らしの良さと反対側には海という好ロケーション、淡い色調の船内に引き寄せられて彼らは砂糖に群がる蟻のごとくうじゃうじゃと集まってくるのだ。間違いなく下手なスラムよりも恐ろしい場所である。

写真を撮るだけ取って早々に退散した私たちは先ほどからかわいいと話していたポップコーンバケツが売られているスタンドを見つけたのだが、その値段は驚くべきことに3,200円であった。Iはこの価格設定に恐れをなし一瞬にして購入を断念していたが、私の場合よくよく考えてみれば京都市に自転車を取られてさえいなければこれを平気の平左で買えたのである。一度は封じ込めた怒りと悔しさがまたふつふつと湧き上がってきたので急ぎ足でその場を後にした。その後アクアトピアに乗ったのだが、Aはいつもトイレに行くとき「アクアトピアに行ってくるね~」「スプラッシュマウンテンに行ってくるね~」と言い、体や腕をくねらせながら舞うようにして去るような輩なので、これが例のアクアトピアかと思うと感慨深いものがあった。

Aも無事に合流し、マーメイドラグーンで遊んだ。中にあった席が2-3m程ゆっくりと上下するだけのアトラクションに乗ったのだが、これがもう想像を絶するつまらなさであった。並んでいる途中(と言ってもほぼ誰も並んでなどいないが)、そのあまりにつまらなさそうな様子に絶叫マシンに乗る前に似たような感覚で不安が掻き立てられる。実際乗ってみた感想は「だから何」、ただこれだけである。一人で乗る羽目になったAの虚無顔が忘れられない。

その後もAがメリーゴーランドの椅子にされているジーニーと突然自撮りを始めたり、陽気な女性たちのグループに撮影を頼んだら私達が暗く映ってしまうといきなりスマホのライトで照らされたりなどがあった。初めて知ったのだが、パーク内のホテルに泊まる人たちは帰ってゆく人たちに部屋からライトをつけたスマホを振って別れを告げるという風習があるらしい。明日も楽しい一日が待っている彼らの気持ちと言ったらこれ以上ないほどの気持ちよさだろう。悔しくなってライブで退場する芸能人のごとく両手を挙げて四方八方に振りながら「ありがとう!ありがとう!皆ありがとーーーっ!!」と叫びながら帰ってやった。出口付近で撮影を知らないお兄さんに頼んだところ、なぜか彼の自撮りもつけてくれた。これが陽キャのコミュニケーションかと恐れ慄くばかりである。普段から陽キャになりたいと切望している私だが、こんな芸当きっと一生かかってもできない。全国有数の陽キャの少なさを誇る大学に通っているので特段問題もないだろうが。というか自分の写真を撮っている暇があるのなら私のカチューシャの耳が折れていることを指摘してほしかった。

センターオブジアースが中を走る山は圧倒的な大きさを誇り、火と煙を噴き上げ夜はサリーみたいな色に照らし出されるという仕様なのだが、いったい建設にはいくらかかったのだろうか。ずっとこの疑問が心を離れない。

さっきまであんなに動いていた足が門を出た瞬間倍くらい重くなったことが私にとってどれくらい楽しい一日であったかを如実に示している。行ったことが無さ過ぎて実在を疑うフェーズに入っていた東京ディズニーリゾートがやはり存在するとこの目で確かめられたのも良かった。次はランドにも行きたいものである。おしまい。